因果関係の証明は 加賀山 茂 様の 事実的因果関係と相当因果関係→Q5というサイトの解説に基づいて行いました。
■因果関係の証明は,以下のように,2段階でなされるのが普通です。 第1段階は,事実的因果関係です。これは,「あれなければこれなし」という法理に基づいています。 第2段階は,事実的因果関係は,広がりすぎることがあるため,それを制限する法理であり,法的因果関係とか,相当因果関係とか呼ばれています。
■相当因果関係は,不法行為だけでなく,債務不履行の場合にも使われるため,条文上は,債権総論の民法416条で規定されています。 事実的因果関係は,「あれあれば,これあり」という因果関係の証明が困難なため,その裏命題,または,逆命題である,「あれなければ,これなし」という考え方を採用するものです。 ラテン語では,これを「シネ・クア・ノン」と呼んでいます。
■ 論理学的には,(AならばB)といいう命題を証明するために,(ノットAならばノットB)を利用するのですから,正確な論理ではないのですが,原因が一つであることがわかっている場合には,論理的にも正しく,かつ,有用です。
■ 具体例で有用性を説明することにしましょう。
■ たとえば,先天性奇形症の子が生まれたが,その原因が,サリドマイド剤の服用によるものかどうか,証明が困難であったという実例です。
■ しかし,サリドマイド剤が販売禁止になってからは,この先天的奇形症の子は,一人も生まれていないということが判明しました。
■この事件に,「あれなければ,これなし」の法理を利用して,「サリドマイド剤が使われなくなったら(すなわち,「あれなければ」),この先天的奇形症の子は生まれていない(すなわち,「これなし」)」ということが明らかになりました。 したがって,「サリドマイド剤の服用と,先天性奇形症の子の出産との間には,事実的因果関係がある。」ということが証明できたのです。
■その結果,因果関係を争っていた製薬会社と,被害者との間で,和解が成立しました。.
■第2段階は,法的因果関係としての相当因果関係による事実的因果関係のチェックです 。
■「あれなければ,これなし」は論理学的には,正確な因果関係の証明ではないため,これによると,因果関係が広がりすぎる恐れがあります。そこで, 「原因事象が,結果事象に対して,その確率を高めたか?」という観点から,事実的因果関係をチェックするのが,相当因果関係の役割です。 具体例で考えて見ましょう。相当因果関係の理論を発展させた,ドイツの刑法の教科書で紹介されている,代表的な例です。 ある夫婦の子が,何人もの人を殺害したとします。この場合,「夫婦がその子を出産したことと,その子が犯した殺人との間に因果関係があるか?」という問題です。
■たしかに,「あれなければ,これなし」の法理を使うと,その夫婦がその子供を生まなければ,その子による殺人事件は発生しなかったのですから,事実的な因果関係はあります。
■しかし,法的な因果関係である相当因果関係の考え方,すなわち,「原因事象が,結果事象に対して,その確率を高めたか?」という法理を用いると,結果は異なります。
■なぜなら,夫婦が子を出産することが,殺人事件の発生の一般的な確率を高めることはないからです。
■事実的因果関係と,相当因果関係との違いは,この問題を理解することから始まるといわれています。
■皆さんは,理解ができましたでしょうか?
■つぎの事例も有名な事例です。
■馬車が普通に使われていた時代の話です。 馭者が道を間違えて,左折したところ,落雷に遭い,乗客が死亡したとします。
■「馭者の過失と乗客の死亡との間に因果関係があるか?」 というのが,ここでの問題です。
■この問題も,「あれなければ,これなし」の法理だと,因果関係が肯定されます。
■しかし,「原因事象が,結果事象に対して,その確率を高めたか?」という相当因果関係の考え方によると,答えは異なり,御者が左折したことと,落雷による事故の発生には,相当因果関係はないということになります。
■その理由は,御者が左折しても,右折しても,ランダムに生じる落雷の確率は,同じだからです。 このように,相当因果関係は,一般的には,「あれなければ,これなし」という,事実的因果関係の範囲を狭める作用があります
サイクルベースあさひさんへの問い合わせでも、
「パンク修理(空気漏れ)でお伺いした際、バルブコアの腐食による空気漏れがあります。
スライムのシールが貼ってあり、スライムが入っているチューブのみで発生しており、バルブ腐食の原因はスライムだと断定しております」
と経験を元に、「あれあれば、これあり」と事実的因果関係を確認している旨、お伝えしました。
原因(スライムパンク防止剤注入)と結果(バルブコアの腐食)について事実の連鎖が明確な事案だと考えますが、ことさらな証明が必要ですか?
サイクルベースあさひさんからの返答でも、
「影響を与える可能性は非常に低く、日常的にご利用いただいて問題の無い商品」
と、バルブコア腐食とスライムパンク防止剤の事実的因果関係を否定する内容では有りません。
コメントでは
>因果関係の立証でよろしければ、
「スライムパンク防止剤の入っていないチューブでは、バルブの腐食は発生していない。」
でよろしいでしょか?
これではスライムが腐食を誘発する説明にはなっていないのはお分かりになりますでしょうか?
因果関係にも触れていませんし、立証というには程遠いです。
投稿: (236)知恵袋で回答させていただいた者です | 2018年9月20日 (木) 23時19分
と「スライムパンク防止剤の入っていないチューブでは、バルブの腐食は発生していない。」を因果関係にも触れていないと書かれていますが、こちらのサイトの証明法に従えば、事実的因果関係になりえますか?
コメントでの論議が終わった後、気づいたことですが、スライムパンク防止剤以外にも、スライム同様?の組成を持ったパンク防止剤が存在します。
(例:パンク防止剤 マルニ 31703、ドリームシール、エバース スーパーシーラント、ビーバーシーラント等)
スライムパンク防止剤が入っていなくても、同様の組成のパンク防止剤が入っているなら、バルブコアの腐食は発生しますが、例に挙げたパンク防止剤が、スライムパンク防止剤と同じ成分を含んでいるかどうかは、分かりません。
当店の修理経験の中では、スライムパンク防止剤以外のパンク防止剤を目にしたことは、過去に2例しかなく、バルブコアの腐食に関しては未経験です。
他のパンク防止剤の関与を排除し、原因を一つ絞るために
「他社パンク防止剤が入っていない集合において、スライムパンク防止剤の入っていないチューブでは、バルブの腐食は発生していない。」
と訂正しますので、こちらの事実的因果関係で評価してください。
事実的因果関係として述べた、「スライムパンク防止剤が入っていない」は、ごく普通に使われている自転車の状態です。で相当因果関係を認めて頂けますか?
通常の使用では腐食しないと言い切る根拠はこちらに記載されています。
6.1.2 耐薬品性空気の構成の大部分を占める、窒素と酸素は真鍮を腐食しないのは、上記の通り確認されています。
耐食材料としての銅及び銅合金の用途はきわめて多岐にわたっており、各種材料の種々の使用環境における耐食性を一覧にしておくことは有用である。そこで、CABIC(Copper And Brass Information Center)及びCDA(Copper Development Association)にて取りまとめられたデータを基に表6.1-2にその一部を示した8.8')。ただし、材料の耐食性は多くの因子、例えば腐食媒の濃度、温度、流動状態、空気の混入、酸化剤の有無等のわずかな差に著しく左右されるため、これらすべてを考慮して作成することは非常に難しい。したがって本表も、標準的な条件下での材料間の相対比較を目的に作成してある。材料の選択や使用に際しては、本表に示される基本的耐食性と各種材料の使用実績を考慮して慎重に取り扱う必要がある。
A:(Excellent)完全耐食で腐食は起きない。
B:(Good)一部の環境を除いて問題なく使用できる。
C:(Fair)腐食されるが、一部の環境では使用可。
D:(Poor)腐食が激しく使用に適さない。
なお、A~Dの評価はいずれも相対的なものである。
伸銅品データブック P123-128 耐薬品性 より抜粋
尚、事実的因果関係と相当因果関係については、同じ加賀山 茂 様の講義録ですが、第24回 損害賠償の範囲と相当因果関係のほうが、詳細に記述されています。