内装3段変速機の分解・組立 2007/7/14製作 |
・安易に分解なさることはお勧めいたしません。 ・部品の紛失、破損、誤組によって進退窮(きわ)まる可能性があります。 ・部品が適正に機能していない場合、転倒につながる恐れがあります。 ・このページでご紹介している内容は私個人の到達点に過ぎず、作業内容全体を包括しているものではありません。 |
1989年製の買い物自転車に装着されている「内装3段変速機」(インター3)をみていきましょう。 内装3段変速機の分解・組立には、ひとつひとつの作業を確実にこなすことが求められます。 買い物自転車後輪に関する作業を難易度順にまとめてみました。 例えば、作業終了後に試乗したところ、ベアリングの玉押し調整が不完全だったとします。この作業は後輪ハブユニットの最深部に近いので、一連の作業がやり直しになります。 「チェーンの張り調整」ができるようになってから「タイヤ交換」、「玉押し調整」ができるようになってから「内装3段変速機」というように、少しずつレベルアップしていくやり方が確実です。 |
型番は"SHIMANO SG-3S30"です。特徴は「トップノーマル」という点です。現行のインター3は「ローノーマル」になっています。 「○×ノーマル」というのは、変速ワイヤーに力を加えない状態、つまりワイヤーを引っ張っていない状態で、「最も重いギア(高速ギヤ:トップ)」になるか、「最も軽いギヤ(低速加速用ギア:ロー)」になるのかの違いです。 したがって、【軽】、【平】、【速】の3段変速のうち、「トップノーマル」は標準状態が【速】になります。逆に、現行の「ローノーマル」は標準状態が【軽】になります。 |
また、プッシュロッドの出る向きがブレーキ側(左側)になります。現行製品はスプロケット側(右側)となっています。 車輪の外し方につきましては、下記のページをご参照ください。 ■買い物自転車の後タイヤ交換 また、自作の自転車整備スタンドについては、「自転車用メンテナンススタンド製作」をご覧ください。 |
タイヤ単体状態にします。 |
17mmのコンビネーションレンチを使い、反時計回り(左回り)に回すとゆるみます。通常の正ネジです。 |
このブレーキユニットを固定しているのは薄型ナットです。 面取りが多くとられているレンチの場合、ナットの厚さの半分程度しか噛み合わないため、ナットの角を痛める場合があります。 そこでディスクグランダで面取り量を少なくすると噛み合う幅が広がり、きちんと回せるようになります。 |
ブレーキユニットが外れました。 |
ベアリングの「玉押し」(コーン)を15mmハブスパナで押さえ、その上にあるロックナットを17mmレンチでゆるめます。 |
「玉押し」とロックナットが外れました。 この状態になれば、スプロケット側から内装3段ユニットを取り出すことができます。 |
内装3段ユニットです。 |
内部機構の分解 |
内装3段ユニットを分解していきます。 スプロケットのナット部分を万力で固定し、作業していきます。 |
分解する前に、各部品の位置や方向、動作などを確認しておきます。 |
全体を止めている「Eリング」を外します。 黄色い矢印の部分にマイナスドライバを差し込み、回すようにするとスムーズに外れます。 Eリングは飛ばして紛失しやすいので、左手の親指でEリングを押さえながら作業します。 |
「Eリング」を外したあとは、各部品を上方へ持ち上げるだけで外れていきます。 「キャリアユニット」を外します。 |
キャリアユニットの下側です。 「ドグ」が噛み合うように凹凸が刻まれています。 また、内部には3つの遊星ギアが見えます。 |
リングギアユニットを外します。 |
リングユニットが外れにくい場合は、指でラチェット爪を少し動かすとスムーズに外れます。 |
リテーナー付きボールベアリングが見えてきました。 このリテーナーの方向を間違えやすいので要注意です。 |
上に持ち上げるだけで外れます。 |
ベアリングのコーン(玉押し)が見えます。 このベアリングの相手は、ハブシェル(ホイール側)の内面になります。 |
「プッシュロッド」と「ドグ」の位置関係です。 |
内装3段ユニットの部品構成です。 |
スプロケットを外します。 スプロケット軸には2つの溝があります。ひとつはスプロケット用、もう一つはスプロケを外れないようにするための「Cリング用」です。 つまり、スプロケは溝にはまっているだけで、「Cリング」で抜け止めされています。 「Cリング」はケガキ針などを使うと外しやすいようです。 スプロケットを交換するだけならば、内装変速機を分解する必要はありません。車輪をフレームから外した段階で行うことができます。 |
スプロケ周辺の部品構成です。 スプロケは内側の3つの爪で位置決めされています。 |
最後に残ったのが「ドライバーユニット」です。 この「玉押し」を外す場合は、車軸の端からどれくらいの位置にあるかを測っておきます。こうしないと、「玉押し」を何処にするとセンターが出るのか分からなくなってしまうからです。 |
<摩耗したスプロケとスプロケ軸> スプロケットの回転方向にガタがあることが以前から気になっていました。 「変速をスムーズに行うための機構なのだろうか?」とよく分からないまま乗っていましたが、今回原因が分かりました。 それは長年の酷使による「摩耗」でした。 スプロケット側の突起凸は、本来左右対称のはずなのですが、右側が大きく削れています。 |
また、スプロケットを受ける「軸側」も摩耗していました。 黄色い線が本来の位置ですが、そこから3~4mmほど削れてしまっています。 |
組立編 |
シマノからは内装ハブ用グリス"NEXUS GREASE Y04120800"が100g入1,000円前後で販売されています。 (株)吉田商会 シマノ グリス 2005年4月に手を入れた時は、米フィニッシュライン社の「テフロングリース」を使用しました。この時は多く塗りすぎてしまい、ラチェットの動きを妨げてしまったという失敗がありました。しかし、再び分解してグリスを軽く拭き取ることで快調になり、2007年7月までの2年弱を特に問題を感じることなく過ごしてきました。 |
今回は実験的な試みとして、エーゼットの「万能グリース」を使用してみました。「ちょう度」2号のリチウム系グリースです。 グリースの種類などにつきましては、当サイトの「各種グリースと使い方のヒント」をご覧ください。 |
玉押しを外さなくても、ドライバユニットを後ろにずらせば隙間ができます。ここから狭所ノズル付きのグリスガンでグリースを注入しました。 |
再び万力に固定して作業を進めていきます。 ドライバユニット全体にグリスを薄く塗り広げます。 厚くボテボテに塗っているように見えますが、実際はそれほど厚くありません。 |
リテーナー付きベアリングにグリスアップします。 リテーナー内側の奥まった部分まで、十分にグリースを詰め込みます。 |
ドライバユニットにベアリングを装着します。 リテーナーの向きにご注意ください。 |
リングギアユニットを装着します。ユニット全体に薄くグリースを塗り広げておきます。 ラチェット爪周辺の隙間には、グリースの量をほどほどにしておきます。隙間を埋め尽くすほどグリースを詰め込むと、ラチェット爪の動きを妨げてしまいます。 |
むらなく全体にグリースを塗り広げます。 |
キャリアユニットを取り付けます。 遊星ギアの内部には十分にグリースを塗りました。 また、リテーナー付きベアリング周辺にも十分にグリースを塗っておきます。 |
Eリングを取り付けて一段落です。 |
Eリングはプライヤなどで押し込むと入れやすいようです。 この時、リングをピーンと飛ばして紛失しないように注意します。 |
内装ケース内側にグリスを塗ります。 厚くボテボテに塗るのではなく、均一にほどほどに塗ると調子が良いようです。 また、ケースの最も手前側(スプロケ側)には、先ほどのリテーナー付きベアリングがきますので、ここには十分なグリースを塗っておきます。 |
<2005年4月の例> これはグリースをやや塗りすぎている例です。1週間後に再分解して量を減らしました。 作業終了後、「フリー」機構が適正に機能しているかどうかを十分にご確認ください。 |
左は整備用工具として用いられるラチェットレンチの内部構造です。動力を一方向のみに伝える「ラチェット機構」の基本的な形をしています。左の画像においては、歯車は矢印の方向のみ回転できます。 Wikipedia > ラチェット 「爪」(つめ)と「歯車」のかみ合いが突然外れてしまうと、強く踏み込んでいたペダルが踏み抜けてしまい、バランスを崩して転倒する恐れがあります。 |
ブレーキ側のベアリングにも十分グリースを塗り込んでおきます。 |
内装ユニットを装着し、玉押しの調整をします。 |
ブレーキ側です。 |
ブレーキのドラムに油分が残っていると、効きが悪くなってしまいます。 そこで、「パーツクリーナー」などの脱脂洗浄スプレーで油分を十分取り除いてからブレーキユニットを取り付けます。 |
ブレーキ周辺の組み立て、チェーンの張り調整は、以下のページをご参照ください。 ■自転車の身近な調整 <空気・ハンドル・チェーン> ■買い物自転車後輪のタイヤ交換 |
使用した工具 |
今回使用した工具類です。 ■プラスドライバ2番【中】 ■10mmナットドライバ ■17mmコンビネーションレンチ ■10mmコンビネーションレンチ ■15mmディープソケット・3/8drラチェットレンチ ■15mmハブスパナ ■プライヤ ■ケガキ針 (スプロケCリング外し) |
<ケミカル類> ■歯ブラシ ベアリングリテーナーの細かい部分掃除 ■洗浄ブラシ(筆型) ■80gグリースガン エーゼット「万能グリース」蛇腹カートリッジ ■パーツクリーナー |
<Takaよろず研究所内の関連リンク> ■買い物自転車 リアハブOH 分解編 ■買い物自転車 リアハブOH 組立編 ■各種グリースと使い方のヒント ■自転車の身近な調整 <空気・ハンドル・チェーン> ■買い物自転車後輪のタイヤ交換 |
<参考文献> シマノ NEXUS 3 SPEED HUB SG-3R40サービスマニュアル <参考にさせて頂いたページ> ◆寿サイクル 内装3段変速機の仕組み 内装3段変速トラブル ◆自転車修理屋 M.B.M 内装3段ギアのオーバーホール ◆シマノ取扱説明書 SI-3S40K ◆SHIMANO Technical Docs Exploded View: EV-SG-3R40_BR-IM31-R-2317 |
TAKAよろず研究所 https://anocora.com/taka/ 2007/7/14製作 2008/5/13補足 |