エ 不利益事実の不告知
事業者の行為として、第三に、不利益事実の不告知(第2項)を規定している。
① 「当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ」
「当該重要事項(=ある重要事項)に関連する事項」とは、基本的には、「ある重要事項」にかかわりつながる事項を広く意味する。しかしながら、不利益事実の不
告知の対象が「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)」と限定されて
いるため(後述)、実際上この「事項」は、一般的・平均的な消費者が不利益事実が存在しないと誤認する程度に「ある重要事項」に密接にかかわりつながるものである。
「当該消費者の利益となる旨」とは、消費者契約を締結する前の状態と後の状態とを比較して、「当該消費者」(=個別具体的な消費者)に利益(必ずしも財産上の利益に限らない。)を生じさせるであろうことをいう。本項が個別の勧誘場面について適用される規範である以上、ここでは「一般的・平均的な消費者の利益」ではなく「当該消費者(=個別具体的な消費者)の利益」を問題としている。
② 「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったこと」
ア 平成30年改正の趣旨
平成30年改正前の本規定は、不利益事実の不告知による取消しの要件を、事業者が不利益事実を故意に告げなかった場合に限定していた。このため、消費
者は自らが直接関知しないような事実について事業者が知っていたことを立証することが求められ、消費生活相談の現場では、こうした事業者の故意につい
ての立証が消費者にとって困難であり、当該規定は実務上利用しにくいという指摘がされていた。
また、裁判例においては、先行行為(ある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げること)が具体的な告知と
して認定されることを前提として、故意の認定に際しては、具体的な事実を摘示せずに結論として故意があるとしたものや、事業者が消費者の誤認を認識し
得たことから、故意を認定(推認)したもの等、故意要件を事案に即して柔軟に解釈しているものがみられた。
このように、故意の要件の見直しは、消費生活相談の現場における当該規定の活用及び訴訟における妥当な結論の確保という観点から課題になっていた。
そこで、平成30年改正では、このような故意の立証の困難さに起因する問題に対処するため、不利益事実の不告知による取消しの要件として、「故意」のほ
かに「重大な過失」を追加した。
イ 「当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)」
「当該重要事項」とは、「ある重要事項」(上記①)を受ける。
「当該消費者の不利益となる事実」とは、消費者契約を締結する前の状態と後の状態とを比較して、「当該消費者」(=個別具体的な消費者)に不利益(必
ずしも財産上の不利益に限らない)を生じさせるおそれがある事実をいう(例えば、有価証券の取引で、当該消費者が取得した有価証券を売却するなどによ
り得られる金額が、当該消費者が当該有価証券を取得するために支払った金額(取得価額)を下回るおそれがあること、すなわち元本欠損が生じるおそれが
あることが「当該消費者の不利益となる事実」に当たる)。
本項が個別の勧誘場面について適用される規範である以上、ここでは「一般的・平均的な消費者の不利益」ではなく「当該消費者(=個別具体的な消費者)
の不利益」を問題としている。
「当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきもの」とは、事業者の先行行為により、当該重要事項について当該消費者の不利益とな
る事実は存在しないであろうと「消費者」(=一般的・平均的な消費者)が通常認識するものをいう(不利益となる事実は存在するため、この認識は「誤認」
であるといえる。(3)②ウを参照のこと)。
ウ 「故意又は重大な過失」
「故意」とは、「当該事実が当該消費者の不利益となるものであることを知っており、かつ、当該消費者が当該事実を認識していないことを知っていながら、 あえて」という意味である。「重大な過失」とは、僅かの注意をすれば容易に有害な結果を予見することができるのに、漫然と看過したというような、ほとんど故意に近い著しい注意 欠如の状態をいうとされている(最判昭和32年7月9日民集 11 巻7号 1203 頁、大判大正2年12月20日参照。失火責任法の判例。)。
<不利益事実の不告知型事例とその考え方>
消費者契約法第4条第2項には、「・・・当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)
とあります。
ここは条文を幾ら眺めていてもよく分からないところだと思います。 立法当事者の解説によれば、次のようになります。
まず、「当該消費者の不利益」ですが、この不利益とは経済的な不利益に限られず、広く消費者が望まない状態が含まれるとされます。
そして、何が不利益かの判断基準は、当該消費者の主観になります。
つまり、業者が今契約しようとしているその消費者が不利益と感じることです。
次に、(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)の意味です。
ここでは当該消費者ではなくて、ただの「消費者」となっていますから一般消費者の判断を基準にしています。
どういうことかと言いますと、その不利益は先行行為として業者から利益となる事実を告知されることで、一般消費者なら通常こんな不利益は存在しないと考えるような不利益に限り
ますということなのです。
結局、当該消費者の主観を基準にすると範囲が広くなり過ぎる恐れがあるので一般消費者の判断基準を入れて歯止めを懸けたです。
なお、この括弧書については、消費者契約法の趣旨から制限的に解されるべきという見解も有力です。